コンプライアンス態勢構築から、内部監査、社内研修、各種契約書の作成に至るまで、「不動産信託受益権」の取引を全面的にサポートします。

001top

不動産信託の基礎知識

基礎知識

信託とは何か

 「信託」とは、他人のために財産を管理・処分する仕組みのひとつで、特定の者が一定の目的に従い財産の管理・処分等をするものです。
 具体的には、ある財産を持っている人(A:委託者)が、その財産の名義を特定の人(B:受託者)に移し、その特定の人(B:受託者)は一定の目的に従い、ある人(C:受益者)のために管理・処分を行います。

信託の仕組み

特徴1 受託者が財産の名義人となる

 「代理」や「委任」の場合、財産の名義人は本人・委任者のままであるのに対して、信託の場合、受託者が財産の名義人となり、信託財産の管理・処分を行う権限は「受託者のみ」が有することになります。
(なお、受託者の行為につき制限を付すことや、委託者から指図できるようにすることは可能です。)

特徴2 収益は受益者が享受する

 信託によって財産の名義は受託者へ移転しますが、受託者は自らの財産として管理・運用を行うものではなく、信託行為で定められた「一定の目的」(信託目的)に従って受益者のために管理・運用すべき義務を負います。このため、信託財産から生じる収益は受益者に帰属することになります。

特徴3 委託者からも受託者からも独立した財産となる

 信託財産は受託者の名義となるため、委託者の債権者は信託財産に対して強制執行等をすることができません。その一方で、信託財産は受託者の固有財産からも独立しているため、受託者の債権者が信託財産に対して強制執行等をすることができません。
 この結果、信託財産は委託者や受託者が倒産したとしても影響を受けない独立した存在になります(倒産隔離機能)。

受託者の義務

 受託者は他人のために信託財産を管理・処分する権限を有しています。このため、権限の悪用・濫用によって受益者の利益が損なわれることがないよう、受託者には様々な義務が課せられています。

善管注意義務

 受託者は、信託事務を処理するにあたり、善良な管理者の注意をもってこれをしなければなりません(信託法第29条)。
 善管注意義務とは、職業や社会的地位に応じて一般的に要求される程度の注意をしなければならないということであり、自己の財産に対する以上の高度な注意を要求されます。

忠実義務

 受託者は、受益者のため忠実に信託事務の処理その他の行為をしなければなりません(信託法第30条)。
 忠実義務をさらに具体化したものとして、「利益相反行為」(信託法第31条)及び「競合行為」(信託法第32条)が禁止行為とされています。

分別管理義務

 受託者は、信託財産に属する財産と固有財産及び他の信託の信託財産に属する財産とを、分別して管理する必要があります(信託法第34条)。

その他の義務

 上記のほかにも受託者には下記の義務が課せられています。

  • 公平義務(受益者が複数の場合には全ての受益者を公平に取り扱わなければならない。信託法第33条)
  • 委託先の選任・監督義務(信託事務の処理を外注する場合、委託先の適切な選任と監督を行わなければならない。信託法第35条)
  • 報告義務(信託法第36条)
  • 帳簿作成義務(信託法第37条)

受益権とは何か

 受益権とは、受益者である地位に基づく権利であり、次の2つの権利から構成されています(信託法第2条第7項参照)。

受益債権

 受益債権とは、信託財産から生じる利益を受託者に請求する権利をいいます。信託財産が不動産の場合、不動産賃貸収入から管理費用等を控除した賃貸収益や、当該不動産の売却収入から諸経費を控除した売却収益を請求する権利が受益債権です。

受益債権を確保するために一定の行為を求めることができる権利

 受益者には、受益者の利益を保護するため、信託の変更や受託者の解任等を裁判所へ申し立てる権利や、受託者の権限違反行為を取り消す権利等が与えられています。

受益権の譲渡

 受益権は本来自由に譲渡できるものですが(信託法第93条第1項)、信託契約で受託者の承諾を要するものと定めることが通例です。
 実務的には、譲渡人(旧受益者)と譲受人(新受益者)が連名で受託者に対し譲渡承諾依頼書を提出し、受託者より譲渡承諾書に押印を得たうえで公証人役場にて確定日付を取得する流れとなります。

不動産信託の登記

不動産を信託した場合、委託者から受託者への所有権移転登記がなされます。登記原因は「●年●月●日 信託」となり、また名義人は「受託者 ●●」となります。それと同時に(受託者への所有権移転登記と同順位で)信託登記が行なわれます。

【信託登記のイメージ】
信託登記
 信託登記においては「信託目録」が作成され、委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所、信託の目的、信託財産の管理方法、信託の終了の事由、その他の信託の条項等が記載されます。

【信託目録のイメージ】
信託目録

不動産信託の税務

所得税・法人税

 信託では、信託財産の名義人は受託者ですが、信託財産から生じる収益は最終的に受益者に帰属します。このため「実質所得者課税の原則」(所得税法第12条、法人税法第11条)により、受益者が信託財産を所有しているものとみなされることになり、受益者に対して所得税又は法人税が課税されます。

消費税

  • 信託設定
    対価の支払のない取引に該当するため、消費税は課税されません。
  • 賃料収入
    受益者の課税売上(住宅の貸付けは非課税)とされます。
  • 受益権譲渡
    受益者が信託財産である不動産を譲渡したものとして取り扱われます。(建物相当部分については消費税が課税されることになります。)

固定資産税等

 固定資産税等は毎年1月1日現在の所有者に課税されます。信託の場合、信託財産の名義人である受託者が納税義務者となり、受託者は信託財産の中から納付することになります。

相続税

 信託受益権の相続税評価は、財産評価基本通達(202)に定められています。

  • 元本と収益との受益者が同一人である場合には信託財産の価額
  • 元本と収益の受益者が、元本と収益の一部を受けている場合には、信託財産の価額に受益割合をかけて評価する。
  • 元本の受益者と収益の受益者が異なる場合には、元本を受益する場合と収益を受益する場合とで評価方法が異なる。

不動産ファンドが信託を利用する理由

 不動産ファンドが信託を利用する主な理由は以下のとおりです。

流通課税の有利性

 ファンドが信託を利用する理由の一つに、登録免許税や不動産取得税といった流通課税が低廉であることが挙げられます(下表参照)。

現物不動産信託受益権
不動産取得税【土地(宅地等)】
 固定資産評価額×1/2×3%
【土地(宅地等以外)】
 固定資産評価額×3%
【建物(住宅)】
 固定資産評価額×3%
【建物(住宅以外)】
 固定資産評価額×4%
非課税
登録免許税(所有権移転登記)
【土地(売買)】
 固定資産評価額×1.5%
【建物】
 固定資産評価額×2%
(所有権移転登記) 非課税
(信託登記)
【土地】
 固定資産評価額×0.3%
【建物】
 固定資産評価額×0.4%
(受益者変更)
不動産1個につき1,000円
印紙税売買契約書の記載金額に応じて課税
1億円超5億円以下
 8万円(6万円)
5億円超10億円以下
 18万円(16万円)
10億円超50億円以下
 36万円(32万円)
50億円超
 54万円(48万円)
※()は平成26年4月1日から平成30年3月31日までの措置
信託契約書 200円
信託受益権売買契約書 200円

不動産特定共同事業法の適用回避

 ファンドが信託を利用するもう一つの大きな理由として、不動産特定共同事業法の問題があります。
 投資家から集めた資金で不動産を取得して運用を行うことを業として行うためには、不動産特定共同事業法に基づく許可を得る必要がありますが、ファンドが案件ごとに設立するSPC(特別目的会社)が不動産特定共同事業法の許可を受けることは事実上不可能です。
 そこで、現物不動産を信託受益権化することにより、不動産特定共同事業法の適用を受けずにファンドを組成する方法が広く行われることになりました。
 なお、平成25年12月に不動産特定共同事業法の改正が行われ、許可業者に業務を全部委託することでSPCについては許可が不要となるスキームが作られました。これにより必ずしも信託を利用しないで不動産ファンドを組成する道ができましたが、普及には時間がかかるものと思われます。

担保の適格性

 現物不動産を担保とする場合、土地・建物に抵当権を設定することになりますが、抵当権設定登記の登録免許税は「債権金額の0.4%」であり、数十億円・数百億円という借入を行うファンドにとっては大きな負担です。
 これに対して、受益権を担保とする場合には、受益権に対して質権を設定することになりますが、登記ではなく確定日付付きの質権設定承諾書を受託者から取得するだけですので、担保設定のコストは殆どゼロに等しいといえます。
 また、債務者に債務不履行があった場合、現物不動産の場合には裁判所の競売手続によって回収することになりますが、手続に要する時間と費用が相当程度かかります。
 一方、信託の場合には、質権実行によって債権者が受益権を取得したり、あるいは受益権を任意に処分したりすることが可能であるため、回収の場面においても優位性があります。

投資対象物件の適格性

 受託者はどんな不動産であっても信託を引受けるわけではなく、対象不動産の詳細な調査(デューデリジェンス)を行い、自社の基準に適合すると判断したものに限って受託しています。
 逆に言えば、信託銀行のように高度な専門能力を有している受託者が引受けをした不動産であるということは、投資対象として一定の適格性を有していると言えるため、投資家の投資基準において「受益権化が可能な物件を投資対象とする」としているところもあります。

不動産ファンドにおける信託スキーム

 不動産ファンドの特徴は、何と言っても登場人物(法人)が多いことです。案件によってさまざまですが、一般的な登場人物(法人)は下記のとおりです。

受託者土地建物の所有者。受益者の指図に従って管理運用を行う者。
受益者信託配当を受け取る権利を持つ者。投資家が設立するSPCであること多い。
アセットマネジャー受益者に代わって受託者へ指図を行う者(指図代理人)
プロパティマネジャー不動産管理、賃貸管理業務を行う者。
マスターレッシー受託者から信託不動産を一括して借り受け、テナントへ転貸する者。
投資家
(エクイティ)
受益者(SPC)の出資者。
レンダー受益者(SPC)へ貸付を行う者。

[スキーム図の例]
スキーム図

※プロパティマネージャーがマスターレッシーを兼ねるケースもある。

不動産信託に関わる法規制

信託法

 信託法(平成18年12月15日法律第108号)は信託に関わる基本法であり、信託関係がいかなるものであるかを定義しているほか、受託者、委託者および受益者の権利義務や信託の変更や終了等が定められています。

信託業法

 信託業法(平成16年12月3日法律第154号)は、信託業の免許の基準や信託会社に対する行為規制等を定めた法律です。
 なお、信託銀行については、信託業法ではなく「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律」(昭和18年3月11日法律第43号)により規律されていますが、同法では信託業法の規定の多くを準用しています。

金融商品取引法

 金融商品取引法(昭和23年4月13日法律第25号)は、金融商品を包括的・横断的に規制する法律です。
 受益権の売買、売買の代理または媒介、私募の取扱いを業として行うためには「第二種金融商品取引業」の登録が必要とされ、登録を受けた業者には様々な行為規制が課せられています。

金融商品の販売等に関する法律

 金融商品の販売等に関する法律(平成12年5月31日法律第101号)は、金融商品販売業者等の顧客への説明責任を明記し、さらに元本欠損額を損害額と推定する規定をおき、立証責任を転換することによって顧客から業者に対する損害賠償請求を容易することで、投資家保護を図ることを目的とした法律です。

宅地建物取引業法(宅建業法)

 宅地建物取引業法(昭和27年6月10日法律第176号)は、宅地及び建物の取引の公正と購入者等の利益の保護を図ること等を目的とした法律です。
 宅地建物取引業者が受益権取引を行う場合には、宅地建物取引業者は顧客に対して重要事項の説明をすることが義務づけられています(宅建業法第35条第3項、第50条の2の4)。

おすすめ書籍

不動産信託受益権取扱業者のための態勢構築と契約書式マニュアル

著者: 一般社団法人不動産ビジネス専門家協会
発行: 綜合ユニコム株式会社

 本書は、不動産信託の仕組みや法規制を理解する「不動産信託の基礎知識」から、第二種金融商品取引業へ登録するための「登録申請書の作成」、コンプライアンス態勢を構築すべく「社内規程の整備」「内部管理」、さらには不動産信託受益権の取引の流れと留意事項を整理した「取引実務」までを掲載しております。
 不動産信託受益権の取引を始めたい方から、第二種金融商品取引業を登録済みだが、コンプライアンス態勢や内部管理態勢を見直したい、具体的な信託受益権取引実務や契約書・法定書面の作成を学びたい方へのノウハウを網羅した実務資料となっています。

不動産信託受益権取扱業者のための態勢構築と契約書式マニュアル


 不動産信託、不動産ファンドについて学びたい場合には、こちらの本もおすすめです。


powered by Quick Homepage Maker 4.85
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. QHM

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional